パネルがヘコむとなぜ鉄板は伸びてしまうのか

パネルがヘコむとなぜ鉄板は伸びてしまうのか
板金職人は「伸びてるから直らない」と言うことがよくあります。
そもそもなぜ硬い鉄が伸びてしまい、伸びてしまった鉄板は元には戻らないのでしょうか?
伸びないためどうするか。
伸びてしまった鉄板を元に戻すにはどうするべきなのか?

鉄板は硬いビニール袋

車などのパネルは強く手で押したり、なにか大きな衝撃があった場合にヘコんでしまいます。
ピンと張ったビニール袋を指で押し込むとどうなるでしょう?
そうです、ヘコみます。
この現象が鉄板でも同じように発生しているんですね。
ビニール袋を指で押し込めば、ヘコんだ部分が薄くなって向こう側が透けて見えます。
鉄板も同じく伸びている。
更に指で押し込めば、ビニール袋は限界に達して穴が空いてしまいます。
事故で大きな衝撃があれば鉄板はちぎれてしまいますが、これも鉄板が伸びに対応しきれないほど伸びてしまった結果です。
硬い鉄と柔らかいビニール。
全く違う性質に見えますが、「伸びる」という原理はどちらも同じです。

伸びた鉄板を元に戻すには

ヘコんでしまった鉄板を叩いても元には戻りません。
伸びたビニールを元の位置に戻してもグニャグニャのままですから、絶対に元通りにはなりません。
しかし、グニャグニャの部分をライターで炙るとどうでしょう?
ギュッと小さくしぼみますよね?
これが「絞り」という技術で、鉄板に熱を加えることで伸びた鉄板がギュッとしぼむのです。
伸びて張りが無くなってしまった鉄板、ビニールに熱を加えることで、わずかですか鉄板がしぼみ、少しずつ張りが戻ってきます。
このようにして鉄板の伸びを縮め、元の状態に復元していくのです。
しかし、鉄板を絞りすぎてもいけません。
絞られた鉄板は徐々に短くなっていきますが、絞りすぎると歪みの無かった部分まで引き寄せられ、鉄板が足りなくなってしまいます。
ビニールでも同じように、一点に火を当て続ければその周りも引き寄せられてしまいますよね。
この微妙な見極めが職人の技なのです。

歪みをなくせない場合はパネルの裏を補強する

ここ最近の車のドアやクォーターパネルなどは、プレスラインからプレスラインまでの感覚が非常に広く取られています。
90年代前半までの車は、鉄板をプレスして綺麗な張りを保たせる技術も高くなかったため、モールなどを取り付けてプレスラインを増やしていました。
これによってヘコみの歪みがプレスラインで止まってしまうため、小さな範囲での補修が可能でしたが、プレスラインの感覚が広ければ歪みが止まることなくヘコみの大きさに応じてどこまでも広がり続けてしまいます。
現在でも、薄く広い鉄板に張りを保たせるためにドア内部には「ビーム」と呼ばれる棒状の部品が取り付けられています。
このビームが無ければ鉄板はベコベコとしてしまい、軽く押すだけでもすぐにヘコんでしまうでしょう。
歪みを無くせなくなった補修で、このビームの役割をさせてしまおうと言うのです。
たしかに延々と絞り、伸ばしを続けていけば必ず綺麗な張りは再現できますが、限られた予算と時間の中で補修をしているのですから、採算が取れません。
ある程度で見切りを付け、裏から補強することもある種の技術ということです。
この方法は、裏からパテを盛り擬似的に鉄板を厚くさせることで、ベコベコとした鉄板ではなくなります。
しっかりと足付けをし、パテを薄く塗り重ねれば擬似的な厚い鉄板が完成し、表面のパテ研ぎも比較的楽になります。
この方法を使う場面は多いとは言えませんが、本来なら交換しなければ直らないパネルを、予算の都合上、補修で行なわなければならない場合などによく使われます。
このような修理方法を使えば、本来は短時間では復元不可能であったパネルも綺麗に補修することができますので、このような方法も活用していきましょう。